一年間の事業を締めくくる決算は、税額を確定させると同時に、事業の実態を映し出す作業です。とくにECは在庫の扱いで利益が大きく変わります。中小企業診断士でもある現役セラーが、決算と節税の基本を実務目線で解説します。
監修: 廣瀬正拓(中小企業診断士 / 現役EC事業経営者)
EC事業の決算の流れ
決算とは、一年間の売上と費用を集計し、利益を確定させて税額を計算する一連の作業です。EC事業の場合、複数チャネルの売上や手数料、在庫を正確に集計する必要があり、日々の記帳をきちんと積み上げているかどうかで負担が大きく変わります。
大まかな流れは、一年間の取引記録の集計、売上と経費の確定、在庫の棚卸し、決算書の作成、そして申告と納税です。決算のためだけに慌てるのではなく、日々の会計を整えておくことが最良の準備になります。会計ソフトで各モールの入金データや手数料を継続的に記録しておけば、決算期の作業は集計と確認が中心になり、大きく楽になります。
決算前にやることの順番
実務では、決算月が近づいたら次の順で手を動かすと漏れが減ります。まず各モールの売上と手数料の年間データをダウンロードし、会計上の売上と突き合わせます。次に、未払いの経費(締め後に届く手数料や送料の請求)を確認します。そして在庫の棚卸しを行い、期末時点の在庫数と金額を確定させます。最後に、これらを反映した試算表で利益の着地を見てから、必要な打ち手を検討します。着地を見てから動くのが鉄則で、着地も分からないまま決算前に慌てて経費を使うのは最も避けたい失敗です。
在庫評価の考え方
ECの決算で最も重要かつ誤解されやすいのが在庫の扱いです。期末に売れ残っている在庫は、費用にならず資産として計上されます。仕入れた金額をすべて費用にできるわけではない、という点が肝心です。
仕組みはこうです。仕入れた商品のうち、その年に売れた分だけが「売上原価」として費用になり、売れ残った在庫は資産として翌年に繰り越されます。つまり期末に在庫をたくさん抱えているほど、その年の費用は少なくなり、利益は大きく出ます。決算前に大量仕入れをして節税しようとしても、売れ残れば在庫として資産計上され、節税にはならないどころか、現金だけが減る結果になります。
| 仕入れた商品 | 会計上の扱い |
|---|---|
| その年に売れた分 | 売上原価として費用になる |
| 期末に売れ残った分 | 棚卸資産として資産計上、費用にならない |
数字で見る「仕入れても節税にならない」例
具体例で見てみましょう。仮に、決算前に利益が出ているからと100万円分を追加で仕入れたとします。このうち期末までに売れたのが20万円分だけなら、費用として認められるのはその20万円分の原価だけで、残り80万円分は棚卸資産として資産に計上されます。現金は100万円出ていったのに、その年の利益を減らせたのは20万円分だけという結果です。翌年その80万円分がすべて売れる保証もなく、流行遅れになれば値引き販売か廃棄でさらに損をします。「経費で落とすつもりの仕入れ」がいかに資金繰りを痛めるかが分かります。在庫とキャッシュの関係はEC事業の資金繰りと在庫の関係でも詳しく解説しています。
経費にできるもの
事業に関わる支出は経費として計上でき、その分だけ課税対象の利益が減ります。EC事業で経費になる主なものを押さえておきましょう。
- 販売手数料・決済手数料: 各モールに支払う手数料。
- 広告宣伝費: スポンサープロダクトやRPP広告などの費用。
- 送料・梱包資材費: 配送にかかるコスト。
- システム利用料: 在庫管理ツールや会計ソフトの利用料。
- 外注費: 撮影、ページ制作、業務委託など。
大切なのは、事業との関連を説明できる支出であることと、領収書などの証憑を残すことです。プライベートと事業が混在しやすい支出は、按分の考え方が必要になります。判断に迷うものは自己判断せず、税理士に確認するのが安全です。
按分と見落としやすい経費
自宅を事務所兼倉庫にしているケースでは、家賃・光熱費・通信費を事業で使う割合に応じて按分し、その分を経費にできます。例えば自宅の一室を在庫置き場と作業場にしているなら、床面積の比率などの合理的な基準で按分します。ただし基準はあいまいにせず、なぜその割合なのかを説明できるようにしておくことが大切です。また、EC事業者が見落としやすいのが、少額のツール利用料やサブスク、梱包資材のまとめ買い、リサーチ用に購入した競合商品などです。事業のために使ったものは、小さな支出でも記録して積み上げると、年間ではまとまった額になります。
計上を忘れやすい経費の例
EC事業では、事業のために使ったのに経費に入れ忘れがちな支出が意外と多くあります。積み上げると年間ではまとまった額になるため、次のようなものは意識して記録しておきましょう。
- リサーチ用の購入品: 競合分析のために買った他社商品。
- 少額のサブスク: 画像編集や分析ツールなど月額サービスの利用料。
- 梱包・発送の消耗品: 段ボール、緩衝材、テープ、ラベル用紙など。
- 通信費・交通費: 事業で使った通信の按分分、仕入れや打合せの移動費。
- 書籍・セミナー: 事業に関わる学習のための支出。
これらは一件が少額なため見過ごしやすいのですが、経費にできるものを漏らせば、その分だけ余計に税金を払うことになります。事業のために使ったと説明できる支出は、小さくても証憑を残して記録する習慣をつけてください。判断に迷うものは税理士に確認すれば確実です。
節税の基本と限度
節税とは、使える制度を正しく使って税負担を適正化することです。ここで理解しておくべきは、節税には限度があり、無理な節税は事業を弱らせるという点です。
健全な節税の代表例は、小規模企業共済や経営セーフティ共済(倒産防止共済)の活用、必要な設備投資のタイミング調整、青色申告特別控除の活用などです。これらは制度に沿った正当な方法です。一方で、利益を消すためだけに不要なものを買う、というのは節税ではなく単なる浪費です。税金を払いたくないあまり利益を圧縮しすぎると、手元に残る現金も減り、融資審査でも不利になります。
よくある失敗
- 期末の駆け込み仕入れ: 節税のつもりが売れ残り在庫となり、資産計上されて節税効果はなく、現金だけが減る。
- 不要な備品の購入: 使いもしない機材を買って利益を消し、税金は減っても手元の現金はもっと減る。
- 利益を圧縮しすぎる: 決算を赤字寸前まで削り、融資審査で「返済力がない」と見られて借入枠を失う。
- 証憑を残さない: 経費にできたはずの支出も、領収書やデータがなく計上できない。
診断士の視点で言えば、税金は利益が出た証拠です。適正に納税しながら現金を残すことが、事業を続ける力になります。節税は目的ではなく、あくまで手段だと捉えてください。副業から事業化していく段階での税務の入口は物販副業を事業に育てるステップでも触れています。
日々の記帳をどう回すか
決算も節税も、土台は日々の記帳です。ここが崩れていると、決算期にすべての取引を遡って整理する羽目になり、経費の計上漏れも起きます。EC事業の記帳でつまずきやすいのが、モールからの入金が「売上そのもの」ではないという点です。
モールの入金は、売上から販売手数料や広告費、返金などを差し引いた後の金額が振り込まれます。つまり、通帳に入ってきた金額をそのまま売上として記録すると、売上も費用も実態より小さくなり、正しい利益が出ません。正しくは、売上は総額で計上し、手数料や広告費は費用として別に計上するのが原則です。各モールが発行する取引レポートを使えば、総額の売上と、差し引かれた各費用の内訳が分かります。
| 項目 | 正しい扱い |
|---|---|
| モールの売上 | 手数料を引く前の総額で売上計上 |
| 販売手数料 | 費用(販売手数料)として計上 |
| 広告費 | 費用(広告宣伝費)として計上 |
| 振込額 | 売上から各費用を引いた差額 |
実務では、会計ソフトに各モールの取引データを取り込み、この振り分けを自動化するのが効率的です。例えば、月に一度モールのレポートをダウンロードし、売上・手数料・広告費に振り分けて記帳する流れを固めておけば、決算期の作業は確認が中心になります。手作業で1件ずつ入力していると、取引数が増えたときに破綻します。記帳を仕組みにすることが、規模拡大に耐える経営の土台になります。仕組み化の考え方はEC在庫管理スプレッドシートの作り方とも通じます。
消費税の扱いを早めに理解する
EC事業が成長すると避けて通れないのが消費税です。売上が一定規模を超えると、消費税を納める課税事業者になります。ここで理解しておきたいのは、消費税は預かったお金を国に納める仕組みであって、事業者の利益ではないという点です。売上とともに預かった消費税を、自分の儲けと勘違いして使ってしまうと、納税の時期に資金が足りなくなります。
仕組みを簡単に言えば、売上のときに顧客から預かった消費税から、仕入れや経費で自分が支払った消費税を差し引いた差額を納めます。例えば、売上で預かった消費税が年間80万円、仕入れや経費で支払った消費税が50万円なら、差額の30万円を納める、という考え方です。この納税分は事業のお金とは別に確保しておくのが安全です。消費税は「あとで必ず出ていくお金」として、資金繰り表にあらかじめ組み込んでおきましょう。資金繰りの考え方はEC事業の資金繰りと在庫の関係で解説しています。
また、仕入税額控除を受けるには、要件を満たした請求書などの保存が必要です。輸入取引がある場合は、輸入時に支払う消費税の扱いも関わってきます。消費税は制度が細かく、判断を誤ると納めすぎたり不足したりします。課税事業者になるタイミングが近づいたら、早めに税理士に相談して自社の扱いを固めておくことをお勧めします。
決算書を経営の道具として読む
決算は、税額を出すためだけの作業ではありません。出来上がった決算書は、一年の事業を数字で映した通信簿でもあります。ここを読み解くと、来期の打ち手が見えてきます。例えば、売上に対して手数料や広告費の割合が前年より増えていれば、集客コストが重くなっている兆候です。在庫が前年より膨らんでいれば、仕入れが売れ行きに対して過剰になっている可能性があります。決算書を前年と並べて比べるだけで、どのコストが利益を圧迫しているかが浮かび上がります。税理士に申告を任せる場合でも、出来上がった数字を自分で読み、なぜこうなったかを考える習慣を持つと、決算が節税だけでなく経営改善の起点になります。利益が残らない構造の見直しは月商が伸びても利益が残らないECの構造も参考になります。
納税資金を先に取り分ける習慣
所得税や消費税、法人化していれば法人税など、税金はまとまった額が後からやってきます。決算で利益が出ていても、その利益はすでに在庫や次の仕入れに使ってしまっていることが多く、納税の時期に「払うお金がない」という事態に陥りがちです。これを防ぐには、月々の利益から納税見込み分を別口座に取り分けておく習慣が有効です。例えば、毎月の手残りの一定割合を納税用に避けておけば、申告の時期に慌てずに済みます。税金は利益が出た後に必ず来る支払いだと最初から織り込んでおくことが、健全な資金繰りの一部です。
税理士との付き合い方
EC事業が一定の規模になったら、税理士との連携を検討する価値があります。とくに多チャネル運営や輸入取引が絡むと、消費税や在庫の処理が複雑になり、自力での対応は負担が大きくなります。
税理士に丸投げするのではなく、日々の記帳は自社で整え、判断や申告を専門家に任せるという分担が効率的です。ECの手数料構造や在庫の実態を理解してもらうために、自分の事業を説明できるようにしておくことも大切です。税理士は節税の相談相手であると同時に、資金繰りや事業計画の相談相手にもなります。数字を通じて事業を見てくれるパートナーとして、良い関係を築くことをお勧めします。
依頼する際は、EC特有の商流を理解している税理士を選ぶと話が早く進みます。各モールの入金サイクルや手数料の仕訳、輸入時の消費税の扱いなど、ECには独特の論点があります。面談の段階で「複数モールの入金データはどう扱いますか」といった質問を投げてみて、具体的な答えが返ってくるかを確かめるとよいでしょう。丸投げ前提ではなく、自社で整えた数字を持ち込み、判断の質を上げてもらう。この姿勢が、費用に見合う価値を引き出します。年商1億円超のEC物販を複数支援してきた経験からも、税理士と良い関係を築けている事業者ほど、決算や資金繰りの判断が速く、成長のチャンスを逃しにくい傾向があります。決算と節税は、税金を減らす作業ではなく、事業を数字で見つめ直し、次の一年をどう戦うかを考える機会です。この視点を持てば、毎年の決算が事業を強くする起点になります。副業から事業化する段階での全体像は物販副業を事業に育てるステップもあわせてご覧ください。
- 日々の会計を整え決算に備えているか
- 決算前に利益の着地を確認してから動いているか
- 売れ残り在庫が費用にならない仕組みを理解しているか
- 経費にできる支出の証憑を残しているか
- 節税の限度を理解し浪費と区別しているか
- 規模に応じて税理士との連携を検討しているか



