EC商品の原価計算で「仕入れ値」だけを見ていると、売れているのに利益が残らない事態に陥ります。手数料も送料も広告費も、すべて原価の一部です。累計10万個以上を販売した中小企業診断士が、利益から逆算する値付けの基本を、実際に数字を置く順番で解説します。
監修: 廣瀬正拓(中小企業診断士 / 現役EC事業経営者)
原価に含めるべきコスト
EC商品の原価というと、多くの人が仕入れ値や製造コストだけを思い浮かべます。しかし実際に利益を圧迫するコストは、それだけではありません。モール手数料、決済手数料、送料、梱包資材費、広告費、返品や不良のロス。これらすべてが、1個を売るために消えていくコストです。
診断士として採算を見るとき、私は「販売価格から実際に手元に残るまでに、何が引かれるか」をすべて洗い出します。仕入れ値が販売価格の3割でも、手数料と送料と広告費を足すと、手残りがほとんどないことは珍しくありません。狭い意味の原価だけを見ていると、この構造が見えなくなります。
この見落としが怖いのは、売上が伸びているときほど気づきにくいからです。数字が伸びていると、つい「売れているのだから儲かっているはず」と錯覚します。ところが決算で手元を見ると、思ったほど利益が残っていない。原因はたいてい、売上とともに膨らんだ手数料や広告費や送料を、原価として捉えていなかったことにあります。売上は健康の指標にはなりません。見るべきは、最後に手元に残る利益です。
1個あたりに乗るコストを分解する
抽象的に語っても実感が湧かないので、コストの内訳を項目で並べてみます。仮にある商品を1個売るとき、販売価格から次のような費目が順に引かれていきます。
- 仕入れ・製造原価。商品そのものを作る、または仕入れる費用
- 販売手数料。モールに支払う、カテゴリごとに決まった料率
- 決済手数料。クレジット決済などにかかる費用
- 配送費。倉庫から顧客へ届ける送料
- 梱包資材費。箱、緩衝材、テープなど
- 広告費。その1個を売るために投じた宣伝費
- ロス。返品、不良、在庫処分で消える分
この7項目をすべて引いて、ようやく手元に残るのが本当の利益です。仮に販売価格の3割が仕入れ原価でも、残りの費目を足していくと、手残りは思ったより薄いことがほとんどです。値付けの前に、この分解を必ず一度やっておくべきです。
特に見落とされやすいのが広告費です。多くの商品は広告なしでは売れず、広告費は実質的に「見えない原価」として毎回発生します。広告を原価の一部として扱う考え方はAmazonの手数料で利益が消える。手残りから逆算する値付けの考え方で詳しく解説しています。
目標原価率の決め方
原価率は「安ければ安いほど良い」とは限りません。重要なのは、自社が確保したい利益から逆算して、原価率の上限を決めることです。例えば、確保したい手残りが販売価格の2割で、手数料と送料と広告費で3割が消えるなら、仕入れ原価に使えるのは残り5割、といった形で上限が決まります。
この目標原価率が決まると、商品開発や仕入れ交渉の基準ができます。「この原価率に収まらない商品は、そもそも採算が合わない」と、企画の段階で判断できるようになります。感覚で仕入れて後から採算を確認するのではなく、先に原価率の枠を決めて、その中で作れるかを問う順序が大切です。
数字を置いて逆算してみる
言葉だけではつかみにくいので、仮の数字で逆算の流れを追ってみます。あくまで考え方を示すための例で、実際の比率は商材によって変わります。
仮に販売価格を1000円とし、確保したい手残りを2割の200円と決めます。次に、この商品で消える費目を積み上げます。販売手数料と決済手数料で15パーセント、送料と梱包で1個あたり200円、広告費を1割の100円と見込むとします。すると、手残り200円と諸経費(150円+200円+100円)を合わせて650円が販売価格から引かれ、仕入れ原価に使えるのは残りの350円、という上限が導けます。
この350円という数字が、工場や仕入れ先との交渉の物差しになります。仮に見積もりが400円で返ってきたら、その時点で「この売価では採算が合わない」と分かります。値付けと原価は、このように行き来しながら詰めていくものです。
この逆算で大事なのは、都合の良い数字を置かないことです。広告費を実際より低く見積もったり、返品ゼロを前提にしたりすると、計算上は黒字でも実際には赤字になります。むしろ各費目はやや厳しめに見ておき、その厳しい前提でも手残りが出る売価を組むのが安全です。仮に想定より広告費が膨らんでも、余裕を持たせておけば赤字に転落しません。楽観的な原価計算は、後で必ずしっぺ返しを食らいます。
手数料・送料を織り込む
モールで売るなら、手数料は必ず原価計算に織り込みます。販売手数料はカテゴリごとに料率が決まっており、これに決済手数料が加わります。FBAを使うなら配送代行手数料と保管手数料も乗ります。これらは販売価格に対して一定割合で発生するため、値付けの前に必ず計算に入れます。
送料も重要な変数です。自社発送なら、商品のサイズと重量で送料が変わります。送料無料をうたうなら、その送料は自社が負担するコストとして原価に含めなければなりません。「送料無料」で売った結果、送料ぶんだけ手残りが消えていた、という事態は珍しくありません。送料を織り込まない値付けは、値付けとは呼べません。
送料はサイズと重量で段階的に変わるため、商品設計の段階から意識する価値があります。仮に少し梱包を工夫して1つ下のサイズ区分に収まれば、1個ごとの送料が下がり、それが積もれば無視できない差になります。逆に、送料無料を売りにするなら、その負担を吸収できる売価になっているかを必ず確認します。送料無料は顧客には魅力的でも、原価計算を怠れば自分の首を絞める諸刃の剣です。
販路ごとに手数料は違う
同じ商品でも、売る場所によって引かれるコストは変わります。多チャネルで売るなら、この違いを踏まえて販路ごとに採算を見る必要があります。あるモールでは十分な手残りが出る売価が、別のモールでは手数料の高さでほとんど残らない、ということが起こり得ます。
4チャネルを運営していて痛感するのは、「全チャネル同じ売価」が必ずしも最適ではないことです。手数料構造が違えば、同じ手残りを確保するのに必要な売価も変わります。もちろん価格を大きくばらつかせると顧客の不信を招くため、そこは慎重に調整しますが、少なくともチャネルごとに採算を別々に計算する姿勢は欠かせません。どんぶり勘定で全チャネル横並びにすると、気づかないうちに赤字のチャネルを抱えることになります。特にFBAのように保管料や配送代行手数料が別途乗る仕組みでは、その分を織り込まないと採算を大きく見誤ります。手数料の一覧はモールごとに公開されているので、値付けの前に一度は自分の商品カテゴリの料率を確認しておくべきです。面倒でも、この確認を省くと後から利益で払わされます。
値付けの順序
値付けは「原価に利益を足す」のではなく、「確保したい手残りに全コストを足す」順序で行います。つまり、先に1個あたりいくら残したいかを決め、そこに手数料・送料・広告費・原価をすべて足して販売価格を導きます。この順序なら、どのコストも計算から抜け落ちません。
この逆算方式の利点は、導いた価格が市場で通用するかどうかで、その商品の成否が事前に見えることです。逆算した価格が競合より明らかに高くなるなら、それは値付けの失敗ではなく、その原価・販路の組み合わせが成立していないという重要なシグナルです。値付けは、商品企画の妥当性を検証する道具でもあります。企画段階の採算判断は売れる商品企画の作り方で解説しています。
原価に積む方式との違い
多くの人が無意識にやっているのが、原価に一定の利益率を上乗せする「積み上げ方式」です。仕入れ400円だから、その2倍で800円、といった具合です。これは手軽ですが、手数料や送料や広告費が視野から抜け落ちやすく、売れているのに残らない典型的な原因になります。
逆算方式は逆で、先にゴール(手残り)を決めてから、そこに到達するのに必要な売価を求めます。両者を並べると考え方の違いがはっきりします。
| 方式 | 出発点 | 弱点 |
|---|---|---|
| 積み上げ方式 | 仕入れ原価 | 諸経費が抜け落ちやすい |
| 逆算方式 | 確保したい手残り | 全コストの把握が前提 |
逆算方式はコストを全部つかんでおく手間がかかりますが、その手間こそが利益を守ります。一度自社の費目を洗い出してしまえば、あとは商品ごとに数字を入れ替えるだけです。
逆算方式にはもう一つ利点があります。値引きやセールをするときも、手残りがゼロになる下限の価格が最初から分かっていることです。下限を把握していれば、どこまで値引いても赤字にならないかを即座に判断でき、感覚に頼った安売りを防げます。攻めの値付けも守りの値付けも、逆算の土台があってこそ自信を持って動けます。
採算が合わない時の判断
逆算した結果、採算が合わないと分かったとき、取れる選択肢は限られます。原価を下げる、販売価格を上げる、販路を変える、あるいはその企画を見送る。この四つです。どれも簡単ではありませんが、採算が合わないまま「とりあえず売ってみる」のが最も危険な選択です。
原価を下げるなら、発注ロットの見直しや工場の再選定が手段になります。ただし在庫を増やして単価を下げる判断は、キャッシュを在庫に縛るリスクと表裏一体です。販売価格を上げられないなら、その市場で戦う土俵が合っていない可能性を疑います。累計10万個以上を販売してきた経験から言えば、採算の合わない商品を数で売っても事業は楽になりません。むしろ在庫リスクと運営負荷だけが増えます。撤退の判断も、経営の重要な打ち手です。
薄利多売の落とし穴
採算が薄いと分かっても、「数を売れば何とかなる」と考えてしまう人は少なくありません。しかし薄利多売は、EC事業者にとって最も危険な発想の一つです。1個あたりの手残りが薄いほど、少しの想定違いで赤字に転落します。仮に返品が数パーセント増えたり、広告費が予定より膨らんだりしただけで、薄い利益は簡単に吹き飛びます。
さらに、売る数が増えれば、その分だけ在庫を持つ資金負担も、発送や問い合わせ対応の手間も増えます。数を売ることは、リスクと手間を同時に増やす行為でもあるのです。利益の薄い商品を大量に抱えるより、しっかり手残りの出る商品を適量売るほうが、事業は安定します。撤退や値上げは勇気の要る判断ですが、採算の合わない商品を惰性で売り続けるほうが、長い目で見ればはるかに大きな損失を生みます。
見落としやすいコストの実例
原価計算の失敗は、たいてい「入れ忘れていたコスト」から起きます。とくに見落とされやすい費目を挙げておきます。心当たりがあれば、自社の計算に組み込んでください。
- 返品と不良のロス。返ってきた商品は再販できないことも多く、その損失は全体の原価に薄く乗せて考える必要があります
- 保管料。倉庫やFBAに在庫を置くだけで、時間に応じて費用が発生します。売れ残るほど積み上がります
- ポイントやセールの原資。モールのポイント負担やクーポン値引きは、実質的な値下げであり手残りを削ります
- 梱包にかかる人件費。資材費だけでなく、詰める作業の時間もコストです
- 決済手数料の取りこぼし。販売手数料とは別に、決済ごとに一定率が引かれます
これらは1個あたりでは小さく見えますが、積もると手残りを確実に削ります。仮にセールでポイントを多めに付け、返品も重なった月は、想定していた利益がほとんど消えていた、ということが起こり得ます。小さなコストほど、まとめて見たときの破壊力が大きいと考えておくべきです。
よくある値付けの失敗
最後に、原価計算と値付けでつまずく典型パターンを整理します。どれも一度は多くのセラーが通る道です。
- 仕入れ値の倍で売価を決める。諸経費が抜け、売れているのに残らない
- 送料無料の負担を計算に入れない。送料分だけ静かに利益が消える
- 広告費を原価と別物と考える。広告なしで売れない商品では、広告費は毎回発生する原価
- 全チャネル横並びの売価にする。手数料の高いチャネルで赤字になる
- 採算が合わないのに数で挽回しようとする。リスクと手間だけが増える
これらに共通するのは、コストの全体像をつかまないまま値付けをしている点です。裏を返せば、最初に自社の全費目を一度きちんと洗い出してしまえば、こうした失敗の大半は防げます。原価計算は難しい数式ではなく、引かれるものをすべて数え上げる地道な作業です。その地道さが、売れているのに残らないという最悪の事態から事業を守ります。原価計算と値付けは、商品企画から仕入れ、販売までのすべてを貫く背骨です。ここが甘いまま規模を追うと、売上が伸びるほど資金繰りが苦しくなるという皮肉な状態に陥ります。逆に、ここをしっかり押さえた事業は、派手さはなくても着実に利益を積み上げていきます。値付けは、事業の体質を決める最も重要な意思決定の一つだと考えてください。
- 手数料・送料・広告費まで原価に含めているか
- 1個あたりに乗る全費目を分解して把握しているか
- 確保したい利益から目標原価率を逆算しているか
- モール手数料とFBA費用を実額で織り込んでいるか
- 手残りから逆算する順序で値付けしているか
- 採算が合わない時に見送る判断を持っているか



